SaaSが生み出した新しい働き方のしくみ:AIがつくる次のステージ

SaaSが生み出した新しい働き方のしくみ:AIがつくる次のステージ

Akky AKIMOTO @ サイボウズ・ラボ

2025-10-19

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@akky / サイボウズ・ラボ
SaaSが生み出した新しい働き方のしくみ:AIがつくる次のステージ

自己紹介

  • サイボウズ・ラボで働いています
  • サイボウズは仕事のSaaSを提供する会社です
  • 海外のSaaSやAIスタートアップの調査を担当しています
  • 今日のテーマ
    • SaaSがどう働き方を変えたのか
    • その先にあるAIによる次の変化
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SaaSが生み出した新しい働き方のしくみ:AIがつくる次のステージ

SaaSとは

  • ブラウザで動くソフトウェアのレンタル Software-as-a-Service
    • 初期のコンピューターでは、自社で作成し自社内で運用した
    • 他社が開発したソフトウェアを買ってきて使うパッケージソフトウェアの時代
    • インターネットの登場(1970)・普及(1995)・通信速度の向上により、サーバー側で動くソフトウェアをレンタルすることが実用的になった (2000年代初頭)
    • インターネットブラウザの普及と標準化により、ブラウザで動くソフトウェアが標準になった
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消費者の日常の中のSaaS

  • メール, SNS
  • スケジュール管理・調整
  • ファイル共有
  • 動画, ゲーム

買うものもあるし、広告等と引き換えに無料で使えるものもある

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SaaSの何が企業にうれしいのか

  • サーバーの運用やアップデートは、サービス提供者がやってくれる
  • お金で機能を使うだけで、細かな運用はサービス提供者がやってくれる
    • 社用車のリースや、コピー機のリースという先例がある
  • (サブスク型だと)使う時だけ買える
  • そして、インターネット接続があればどこからでも使える これが次に効いた
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1. 働き方の振り子と「対照実験」

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リモートワークを支えるSaaSツール

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リモートワークの普及

  • フルリモート 11.9%、ハイブリッド 29.4% (WFH 2023)
  • 多くの企業がリモートワークを導入
    • 首都圏の電車の混雑率も一気に低下
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リモートワークを止める? 揺り戻しの季節

  • しかし2023〜2025年にかけて「出社回帰」の動きも
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出社回帰のニュース例

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一方でリモートを維持する企業も

  • Netflix (無限有休休暇の会社としても有名) しかし出社必須の採用枠も
  • Spotify "Work From Anywhere"制度の維持
  • Automattic(WordPress.com) フルリモート
  • Atlassian, Notion, Figmaなどもハイブリッド型を継続
  • サイボウズもそう 公式 たぶん8割以上在宅
  • 「場所」よりも「成果」「非同期性」「自律性」を重視
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出社 vs リモート の決着はまだこれから

  • 今は「どちらがより生産的か」を社会全体で検証する壮大な対照実験の最中
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働き方の変化の本質

  • SaaSによって「どこでも働ける構造」が完成
  • 非同期・共有・自動化の文化が定着
  • リモートの是非ではなく、SaaSが作った働き方が残った
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2. SaaSが人の手を拡張した

  • オンプレミス時代は設備投資と専門職が必要
  • SaaSはそれを「使うだけの道具」に変えた
  • 誰もが月10ドルで大企業並みのツールを持てる時代へ
  • 例: Google Workspace, Notion, Stripe, Canva, Slack

SaaSは、ソフトウェアを“組織の資本”から“個人の手段”に変えた

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オンプレミス時代と比較

項目 オンプレミス時代 SaaS時代
コスト 高額初期投資 月額課金・従量制
導入期間 数ヶ月〜年単位 数分で開始
拡張 ベンダー依存 API・連携で自由
ユーザー層 大企業中心 個人・中小企業も

今は、全部門の人材を揃えなくても、一通りの業務が回せてしまう

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SaaSによる生産性革命

  • SaaSが「ITの民主化」を実現
  • ノーコード・PLG (Product-Led Growth) の流れ 参考
  • 経済学的に見ると「IT資本の再分配」
  • 小さな企業でも世界と戦える時代へ
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2.5. SaaSが社会の神経網になった

  • アメリカには23000+社のSaaS 参考
  • 企業が使うSaaSは平均112 参考
  • 情報・契約・アカウントが分散
  • SaaSを管理するSaaSが登場 (BetterCloud, Torii など)
  • SaaSはもはや企業の神経系 → 道具から社会インフラへ
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3. 大量のSaaSを生み出している仕組み

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3. Hacker Newsとテック文化の生成装置

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Y Combinatorプログラム概要

  • YCはいわば「スタートアップの大学」
    • 3カ月ごとに100+グループを合宿で育成、年間で500件ペースのstartupsを扱う
  • 資金提供: 合計 $500k($125k SAFE 対価7% + $375k MFN uncapped SAFE)
  • 目的: PMF 到達と初期トラクションの最大化
  • 形式: グループオフィスアワー、1:1 メンタリング、週次進捗レビュー
  • コミュニティ: 同期生・卒業生ネットワークの活用
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chart: 参加チーム数の変遷

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Y Combinator の Requests for Startups

  • Requests for Startups(次に起業してほしいテーマ)を常に公開・アップデート
    • 投資家が求める「次に当たるITサービス」
    • これが、近年「とにかくAIをやれ」というメッセージに
    • メンターによっては、今の巨大SaaS企業が多数登場した25年前(インターネット普及)と同じレベルの変動がAI対応で起こるとも
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YC参加企業の「AI」率

YC参加企業の公式database
B2Bカテゴリ(2683社)から、「AI」tagを集計

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4. 生成AI(Gen AI)がSaaSを変える

  • ChatGPTの登場でUser Interface(UI)が「検索→対話→自動行動」へ進化 OpenAI
  • 大手各社がGen AIを競って開発、提供
  • 文章、画像、動画、音楽などさまざまなコンテンツを人に代わって生成できるように
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サービスに組み込まれていくGen AI

  • チャットで依頼するだけではない活用
  • Microsoft 365, Google Workspace, Canva, Adobe
  • MS WordやExcelにGen AIに訊く/頼むボタンが追加
  • Google検索はトップにAI(Gemini)の回答を表示、Googleの家庭用スピーカーはAI対応を発表
  • すべてのSaaSがAIを内包し始めている
  • SaaSの価値はAIとの融合度で決まるようになった
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「AI-Native SaaS」の概念

Gen AIの機能や能力を前提に一から設計されたSaaS

「既存のSaaSに、AIで機能追加しますよ」が今。「AIでできることを使って一から仕事の道具を作り直しますよ」がAI Native。Y Combinatorなども推奨。25年前の「クラウドネイティブ」ブームとの比較

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AIによる既存サービスの退潮

  • 検索のAI要約でニュースサイトの流入が80%減 Guardian, Infactory
  • 人気質問サイトの質問数がGen AI後に激減 Stack overflow分析
  • アメリカの消費者3000万人が検索をやめた Pymnts
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ChatGPT Atlas

  • OpenAI が ChatGPT内蔵のブラウザを公開 (10/21)
  • Perplexity もブラウザを出している

Chromeブラウザに対するAI側からの挑戦

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SaaSからAgentへ

  • ChatGPT Actions, Zapier AI, CrewAIなど
  • AIが他のSaaSを呼び出し、指示し、動かす
  • UIの進化: CLI → GUI → SaaS → Chat → Agent
  • AIがSaaSを使う時代が始まっている
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AIがSaaSを呼び出す

  • ChatGPTらの「ウェブから探してきてまとめて」
  • MCP(Model Context Protocol)でAIが他サービスを呼び出せるように
    • APIと何が違うか? → 何ができるかもその場で自然言語で呼び出せる (相手のことを厳密に把握してなくても協調できる)
    • Cursorらの「次はこの機能をプログラミングして」を大きく支援
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ユーザーとの関係

  • SaaSが人の手を拡張したなら、AIは人の思考を拡張する
    • 経理サービスでたとえる
      • 経理SaaSは、経理を知っているユーザーが使うことで速さや正確性を上げる
      • AI経理サービスは、求める結果を指示することでやり方はAIが構築・実行する
  • SaaSは人の補助ツールから共同作業相手
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5. 次の10年のSaaSと人間の関係

  • (既出)YCのRFSではAIが主役
  • SaaSは「人が使う」から「人と共に働く」へ
  • AIが自動で作業し、人間は意思決定に集中
  • 協働するAIが次のビジネス基盤になる
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SaaSの進化まとめ

時代 主役 SaaSの役割
2010年代 クラウド 手作業の効率化
2020年代 GenAI 思考の補助・自動化
2030年代 Agent 協働・実行

SaaSの過去は共有、現在は自動化、未来は協働

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6. 技術と社会の再調整

  • 技術が進化すれば社会は制度で追いつこうとする
  • GDPR, EU AI Act, 日本のAI事業者ガイドライン
  • 越境データ規制・AI倫理・透明性などの新課題
  • グローバル技術と国家制度の摩擦は今後の重要テーマ
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まとめ

  • SaaSが広げたのは「どこで働くか」「どう働くか」の自由
  • AIが変えるのは「何に時間を使うか」「何を任せるか」の選択
  • SaaSが人の手を拡張し、AIが人の思考を拡張している
  • これからはツールを使うだけでなく、ツールと共に考える力が重要
  • 働くこと = 学び続けること
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おわりに

10年前、ZoomGoogleドキュメントKintoneも、今のようには使われていなかった

そして今、ChatGPTが新しい仕事の形をつくり始めている

10年後、私たちの働き方はどんな「あたりまえ」に変わっているだろうか

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この資料について

今日の内容が、みなさんの将来の働き方を考えるきっかけになれば嬉しいです。

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付録: 資料(働き方・リモートワーク)

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付録: 資料(SaaSとクラウドの進化)

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付録: 資料(Hacker News・スタートアップ文化)

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付録: 資料(生成AIとUI変化)

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付録: 資料(AIと検索・質問サイトの変化)

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付録: 資料(AI・SaaS連携とAgent時代)

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付録: 資料(社会制度とAIガイドライン)

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<a href="https://unsplash.com/ja/%E5%86%99%E7%9C%9F/%E3%83%86%E3%83%BC%E3%83%96%E3%83%AB%E3%81%AE%E4%B8%8A%E3%81%AE%E3%83%A9%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97-MqVtGOhaw1E?utm_source=unsplash&utm_medium=referral&utm_content=creditCopyText">Unsplash</a>の<a href="https://unsplash.com/ja/@kellysikkema?utm_source=unsplash&utm_medium=referral&utm_content=creditCopyText">Kelly Sikkema</a>が撮影した写真

- ひとことで言うとソフトウェアのレンタル。ほとんどがブラウザで動く - 今から見ると当たり前に見えるが、2000年ころにはまだ珍しかった - サイボウズ、も2000年頃にブラウザを活用してカテゴリー日本一にまでなった

- みなさんも、普段SaaSやSaaS的なものを多数使っている。特にスマートフォンの普及以降、どこからでもウェブサービスを使えるようになった - ほとんどのソフトウェアは、PCやスマートフォンの中で動いているのではなく、サーバの中で動いた結果を手元で表示更新している

さてこの「リモート」を実現してきた一つの大きな要素が SaaS

司法書士SaaS(起業手続き)、経理SaaS、契約SaaS、人事SaaS、コールセンターSaaS、マーケティングSaaS、課金SaaS、などなど

--- ![bg right:35% fit](images/shadow_it_by_ChatGPT.png) # SaaSスプロールと管理の課題 - 「Shadow IT」問題: 社員が勝手に使うSaaSが急増 [参考](https://jumpcloud.com/blog/shadow-it) - セキュリティ・契約・アカウントの一元管理が課題 - 企業は「SaaSの運用管理」を専任で行うように - SaaSが増えるほど「つながりの管理」が重要に

自分の個人アカウントで仕事をする→外部へ漏れる 会社のアカウントをプライベートで使う→外部へ漏れる

OpenAI は、一時期 Y Combinator のトップだった Sam Altman氏の創業ではあるが、YCの合宿から生まれたわけではないので、厳密には違う。起業文化として同じルートを持つ、ぐらいか

SAFE(Simple Agreement for Future Equity): 将来の株式発行を約束する簡易な投資契約。YCでは$125k分は7%の株式取得を前提。 MFN(Most Favored Nation): 最有利条項。後から他の投資家がより有利な条件で投資した場合、同じ条件が適用される。 uncapped SAFE: 企業価値(バリュエーション)に上限を設けないSAFE。$375k分は評価額の制限なしで将来株式化される。

このスライドの画像や動画も。テキストを打って数十秒で出てくる

ある図書館がMCPを出したら、「〇〇の本を探して新しい順に3冊予約して」みたいな頼み方ができるようになる。API時代は検索APIの仕様を解析してプログラムを組むしかなかった MCPの悪用の話。AIのガードを回避する話と共通するものだが

お絵描きでもいいか。絵が描ける人が道具で拡張するSaaSと、絵が描けなくても欲しい絵を注文修正できる指示ができればよいAIツール

各分野の専門知識はAIが知っているから、そこは人間の強みではない